ケンカのない夫婦なんて珍しい。 普通はケンカをしながら一緒に年を取って
行くものだよ。じいちゃん、ばあちゃんのケンカは口が達者なばあちゃんの圧勝
に決まってる。じいちゃんは口では勝てないから、落ちぶれても腕力に頼ろう
としちゃう。けど足がもつれて部屋に置いてる観葉植物の鉢をひっくり返す羽目に。
そのあと気持ちが収まらないから何か投げてやろうと辺りを見回してみる。
でもばあちゃんを懲らしめられるものなどあるはずないから仕方なく自分の
入れ歯を投げつけてやる。こうして最後の虚しい抵抗も、ばあちゃんに当たる
どころか、見当違いな所に飛んで行って部屋の片隅に消えてしまうんだ。
そんなケンカは終わってからが大変。観葉植物の鉢を元に戻して、散乱した
土を掃除したり、入れ歯を探さねば。ところが入れ歯が出てこない。どこに消えたか
出てきやしない。 娘と孫が散々探してようやく入れ歯発見!ってなことに。
そのあとは、娘や孫になじられて居場所がなくなり、入れ歯を洗いながら、あ〜、
よせばよかった。そんな老後が目に見えているものだから、静かにしているに限る。
空手は忍耐と我慢か。
心を入れ替えて、消毒するか、いや除菌か、いやいや殺菌しとこ。と思いきや
そんなもんじゃ済まないみたい。心を滅菌しなさい。と師範代の背中に描いてあるわ。
滅? いったいぜんたい誰を滅したいのかな? ん〜、我慢、我慢。