今を生きる誰しも、自分が生きるこの大地に永遠の平穏を願っている。
しかし、そんな平凡な毎日が一変することもある。 昨夜までの元気な身体も歪な動きに喘ぐかもしれない。
そして突然、医者から暗黒の病名を告げられることだってないとは限らない。
ジムでたまに見かける男性に今日も眼が向いてしまった。 年の頃は60歳過ぎ。周りに迷惑をかけるほど
動作は遅く、多くの人は遠巻きにその方を眺めている。 靴を脱ぐのも、服を着替えるのも一苦労のようだ。
見るからに病気を患ったようでもあり、フィットネスジムには似つかわしくない動きをしていた。
観れたものじゃない。 でも誰も手を貸そうともしない。 それどころか、どこか疎ましく眺めている。
異質なものを観るように遠巻きで目は合わそうとしない。 だからそうなのか、その人自身が元々そんな方
なのかわからない。でもその人自身も誰とも目を合わすことはなく、黙々と、そしてゆっくりと鍛錬を繰り返す。
両膝の白いサポーターが痛々しい。
今日、声をかけてみた。
「あまり無理をされない方がいいです。 怪我をされますから」と。
聞けば昔はボートをやっていたらしく、そのころ覚えたサーキットとやらをやっているという。
しかし、それは傍目には、とてもサーキットトレーニングと言えるものではない。
今は体重も50kgそこそこらしい。 「パーキンソン病を7年前に患って、その為のリハビリです」という。
私は周りに気兼ねせず会話を続けた。 動きからして、たぶんそうだろうと思ってはいた。
しかし実際にご本人から伺うと多少、声が詰まって言葉に窮した。
ゴトウさん 65歳。 パーキンソンを患ったのは50歳台後半、自分では自覚症状はなかったらしい。
友人に「何で足を引きずって歩くようになったんだ」と言われて、病院で診察を受けてわかった事。
その日から風景が白黒に変わり、病魔は毎日進むようだと聞くと、励ます言葉を見失ってしまった。
58歳まで普通の人生を歩んでいた方が、あとどれほど生きられるのだろう。
いくら足掻いても止められない何かを感じている人に私は何が出来るだろう。
受け入れるしかないものが世の中には、まだ山のようにあることを私は改めて思い知らされた。
世の出来事は、すべて泡のように湧き上がっては儚く消え、稲妻のように煌めいては、あっという間に
姿を消してしまう。 夢うつつの、つかの間の出来事に、私はまた心を留めようとしている。