毎年、この頃になると地に足がついて居なかったあの時を思い出す。
この日の為に雨の日も風の日も勉強に明け暮れていた息子が12年の人生で
初めて試練に立ち向かう日だった。インフルエンザと雪が今年も受験日に合わせる
ように猛威を振るう。それが2月1日だ。
家内と息子の鼓動が張り詰めた家の空気をどことなく重くしていた。
麻布の校門の前は報道の人やご父兄でごった返し、塾の先生方の雰囲気も
昨日までのものとは違っていた。
日能研の麻布クラスで一貫して前列を死守していたので私自身、少し麻布を軽く
捉えていたかもしれない。そして2月3日が訪れた。
麻布が一番出来たという息子の言葉が妙に引っかかったものの、結果は不動で
あろうと坂道を登って合格発表の場に向かった。母と子供が泣きながら坂道を降りて
くると思いきや合格書類を抱え満面の笑みを浮かべている親子が通り過ぎて行った。
あるはずのものがないという事態を飲み込むのに時間はかからなかった。
しかし、これを家内と息子どう伝えるか、その事を思うだけで胸が痛かった。
そうして2月3日は駆けずり回って1日があっという間に過ぎてしまった。
その中学受験に毎年多くの人達が落胆の涙に沈み、嬉し涙に歓喜する。
たかが第一志望校の不合格くらいで人生を諦める人などいやしない。
息子の麻布当確予測が一転、奈落の底に落ちたあの日から17年目を迎える。
奈落の底に落ちたからこそ、へこたれない心を掴み逆転の人生を味わう事が出来るのだ。
だから失敗は、心を強くする為のいい薬ではないかと思う。
息子は今年の春から循環器系内科医として後期研修医の過程に入る。
今や一日が尊く、一時間が貴重なのだ。