子供が医学部に合格したらゴルフを控えるのは当たり前だし、外食もせず、質素な生活に
慣れなければならない。家内も欲しい服やバッグをどれほどこらえて来たことだろう。
その子が昨日28回目の誕生日を無事に迎え、久しぶりに家に帰って来た。
病院の近くのマンションには帰ることも少なく病院で寝泊まりすることにも慣れたようで
少したくましくなって来た姿を見るのは何だか嬉しいものだ。だからいっぱい話をしたい。
半年ぶりだし募る話もある。さあ、食事を終えて話をしようと思ったら、スタスタと階段を
上がって自分の部屋にこもってしまった。 リビングにはいつものように私と家内だけが居た。
子供が帰ってくるのを心待ちにしていたのに取り残されてしまった。
何だか寂しい気がするけど男の子はそんなものだ。振り返ってみれば自分もそうだった。
親と話をするくらいなら友達と話をしていたい、そう思っていた。
「初期研修医を来年終えると、また大学院に行って四年間勉強し博士号を取るんだよね」と家内に
聞いてみた。 「そうじゃないの。そう言ってたから。」 家内も寂しいそうだった。
子供が部屋から出て来たのは25時を過ぎたころ。
私はゴソゴソとリビングで音がするのを聞いてるうちに寝入ってしまった。
若かりし頃、親が話し掛けてくるのがうっとおしく、つっけんどうな受け答えをしていたことを思い出す。
だからしようがない。集中治療室では寝る間もなく忙しいんだろう。
「また四年間、医学部大学院で勉強するのか? 頑張れよ。」そんな言葉をかける間も無く子供は
自分の道をひたすら歩んでいる。
大学院に通いながら後期研修医を終えて、晴れて一人前の循環器系内科医になるのは32歳のことだ。
「この先どこの大学院に行くのか? 」
「住む場所は大学院の近くにするのか? 」
「 今勤めている総合病院の集中治療室はどれほど忙しいのか?」
親として聞きたいことは山ほどある。
ハラハラドキドキさせてくれた過去が懐かしい。
地球があと何回、太陽の周りを回れば私は子離れ出来るのだろう。