サポータを付けていても打撲を負ってしまう。
力いっぱいに蹴らなくても当たり所が悪ければ、それだけで骨に電気が走る。
親指の付け根や足の甲、そして脛は、大きく膨れても1週間もすれば治るさ。
気にするなほおっておけ、とよく言われた。
しかし治りかけた時に、また同じところに骨がぶち当たる。
でもほおっておけ、大したことはない。
人間には治す力が宿っている。
それを呼び覚ませばいいんだと。
胸の痛みは黄色く変色し、やがて茶色くなって消えて行く。
いつものことだ。
それは生きてる証なんだと耳にした。
でもね、極真でやってるんだ。 当たり前かもしれない。
これが人間の身体なんだといつも思う。 人間の身体はそれほど骨ばって硬いんだ。
倒そうと思っても簡単に倒せるものじゃない。
生身の人間なのに鍛えた胸と腹筋は鉄板ほど硬くなる。
そんな時によく思った。 「俺はサイボーグになった」 と。
明日から2日間、鍛えぬいた身体と身体のぶつかり合いがある。
世界から空手家が集まる。 様々な空手の大会があるが、スピード、スタミナ、パワーの
どれをとってもこの新極真の世界大会が一番だろう。
1日目に3回戦う。 素手に素足で、殴り合い蹴り合う。
2mの巨人を相手に戦う。
120kgを相手に素手で戦う。
打撲どころではない。 控室に戻る足は誰も痛みをこらえて歩く。
でも顔はゆがんでいない。
壇上に上がって骨が折れようと血が噴き出そうと引かない。
心と心のぶつかり合いがある。
ずっと観て来た。
そんな男たちを欠かさず観て来た。
アンディーが鋼鉄の身体で勝ち上がって行ったことも。
ウィリーが立ちはだかった時も。
明日はバレリーとルーカスかもしれない。
誰もが純粋な心を持っていたことを俺は観てきた。
この世に生を受けて生きていることを。
骨が支えていてくれていることを。
肺と心臓が全身に血液を送ってくれていることも。
脳が精一杯動いてくれていることも。
一瞬で意識が飛んで床にスローモーションで転げ落ちることを。
魂が身体に宿ることを。
小さな人が大きな人の蹴りとパンチを受けてもひるまなかったことも。
全部、観て来た。
明日10月31日と11月1日の二日間。
また俺は見届ける。
人の生き様を。
世の中には願いも叶わず死んでしまった若者たちがいる。
若くして無念にも旅立っていってしまった人もいる。
生きろ! 骨が折れても生きろ!
病に伏せても生きろ!
その人たちの分まで君は強く生きろ!
そんな熱い気持ちがまた湧いてくる。